作ることで、生き直す──“数字の世界”から“デザインの世界”へ

「このまま終わっていくのか」──人生灰色の営業時代

聞き手:DesignUp Academy編集部
語り手:Mayuko(Webデザイナー)

編集部: 今でこそWebデザイナーやブランディングデザイナーとして活躍されていますが、最初は証券会社にいらしたそうですね。

Mayuko: そうなんです。証券会社の営業職に入りました。
けれど、あの頃の私は正直、「これが自分のやりたいことだ」と言えるものを何も持っていませんでした。

数字のノルマ、早朝の出社、電話をかけ続ける毎日。

女性だけの部署だったのですが、先輩たちは本当にいい人ばかりでした。
でも、みなさん総じて肌の調子が悪かったですね(笑)
朝はギリギリの時間にやっつけ化粧で出社して、マスカラは取れかけ。
夜はストレスをお酒で流す。
そして目標金額を達成できない月末は、オフィス全体が殺伐としていました。

「ここは長くいるところではない。」

全く自分に合っていないことを、入ってから痛いほど感じました。

自分の本当にやりたいこととは

Mayuko:当時の私は、ただ一日をこなすだけでした。
帰宅途中、街の灯りさえ灰色に見えて、
「人生、もう真っ暗だな」と感じていました。

「このまま、最悪な人生のままなのかな」

心も体も、限界に近かった。
誰に合わせるでもなく、ただ数字を追い、自分を押し殺して働く日々。

そのとき、やっと自分に問いかけたんです。

「私が本当に好きなことは、何だろう?」

一枚のチラシが、希望に見えた

Mayuko:ちょうどその頃、世の中はインターネットバブルの時代。
街角でたまたま目にした一枚のチラシに、
「Webデザイナーを目指しませんか?」と書かれていました。

それを見た瞬間、胸の奥がざわっとしました。
「これなら、私にもできるかもしれない」
そう思ったんです。

何度も心の中で考えたけれど、答えは同じでした。

“作ること”。それが、私の好きなこと。

絵を描いたり、デザインしたり、何かを形にする時間。
それこそが、自分が本来持っていた“呼吸”のようなものでした。

“自分の好きなことを無視して生きるのは、もう無理だ。”

あの夜、世界がほんの少し色を取り戻した気がしました。
それは光というより、痛みの奥に小さく灯るぬくもりのようなものでした。

美大を出ていなくても、
「これだったら自分にもできるかもしれない」——そう思えたんです。

昼は証券会社で働き、夜と週末は専門学校へ。
眠れない日も多かったけれど、「作る」という行為に触れるたびに、
少しずつ、自分が自分に戻っていく感覚がありました。

そしてすぐにWebデザイナーとして転職できました。

「作ること」が、誰かの力になる

編集部: 今はどんな思いでこの仕事をされているんですか?

Mayuko:今はもう、仕事というより“生き方”に近いですね。

デザインのプロジェクトでは、毎回新しい業種や課題が出てきます。
そのたびに調べて、悩んで、形にしていく。
そのプロセスこそが、自分の知的好奇心を満たしてくれるんです。

そして、完成したデザインに「あなたに頼んでよかった!」と言ってもらえる瞬間。
あの一言で、すべてが報われます。

「作ることで、人に役に立てる。」
この実感が、何よりの報酬ですし、実際好きなことでお金をもらえてラッキーだと思います。

“好き”を信じて、生きる方向を変えた

Mayuko:せっかく働くなら、好きなことで誰かを支えたい。
それができるとずいぶん幸せに生きていけると思うんです。

作ることで、人とつながっていく。
自分の小さなひらめきや努力が、誰かの現場や想いを支える。
そう思うと、苦しさの中にもちゃんと希望がある気がします。

“好き”から始まる小さな挑戦が、やがて誰かの役に立っていく。
その循環の中で生きていけたら、きっとそれが幸せなんだと思います。

まとめ:あなたの中にも“火種”はある

証券会社の喧騒の中で、自分の声が聞こえなくなっていたあの頃。
でも、あの違和感こそが出発点でした。

あなたの中にも、静かにくすぶる“好き”の火種があるはずです。
それを拾い上げ、形にしていく——
そのプロセスこそが、生きる実感を取り戻す一歩になるのだと思います。

✏️ インタビュー:DesignUp Academy編集部